第160回HSEセミナー(5月開催) 資料公開

2025年5月23日・24日と第160回HSEセミナーが開催されました。2講義目にはデジタル庁より国民向けサービスグループ次長・審議官を務められております「三浦 明」氏を講師にお呼びし、「マイナンバーカードと医療DX」についてご講演をして頂きました。
通常、セミナー資料および内容について公開はしておりませんが、講師の意向により、今回配布されました「資料」、および要約について公開をさせていただきます。
セミナー資料につきましては以下よりダウンロードしてくださいませ。
※以下の要約は、セミナー録画を自動文字お越しサービスを利用し、文字お越しを行ったうえで、生成AI「Claude」を利用し作成をしています。
マイナンバーカードの技術的優位性
マイナンバーカードは単なる身分証明書ではなく、世界最高水準の電子認証基盤である。カードの券面には写真や氏名などの基本情報が記載されているが、真の価値はICチップに内蔵された電子証明書にある。この電子証明書により、インターネット上で唯一無二の本人認証が可能となり、これはeKYC(電子的本人確認)として国際的に高く評価されている。
認証方式においては、所持認証(カード自体)、記憶認証(4桁暗証番号)、生体認証(顔認証・指紋認証)の多要素認証を採用しており、アメリカの認証基準においても高いレベルを獲得している。また、カードには耐タンパー性が備わっており、改造や不正な情報抜き取りを試みると自己破壊する仕組みとなっている。
現在の普及状況は累計発行数約1億枚、保有数約9,500万枚となっており、国民の8-9割が保有している状況である。これほど高い普及率を達成した電子認証基盤は世界的にも例がなく、日本のデジタル社会基盤として重要な役割を果たしている。
医療分野における活用の拡大
医療分野では、マイナ保険証としての活用が本格化している。従来の健康保険証とは異なり、マイナ保険証では電子証明書を用いた確実な本人認証が行われ、なりすましが不可能な仕組みとなっている。現在の利用率は約3割程度であるが、徐々に上昇傾向にある。
特に注目すべきは救急医療での活用である。マイナ救急として2024年度に試行実施され、2025年度には全国展開が予定されている。救急隊員がマイナンバーカードを読み取ることで、患者のかかりつけ医療機関情報、服薬・薬剤情報、基礎疾患情報を即座に把握でき、適切な搬送先の判断や初期治療の迅速化が可能となる。
国家資格との連携も進んでおり、保健師、社会福祉士、社会保険労務士などで既に運用が開始されている。薬剤師についても本格実施が予定されており、従来必要であった資格証明書のコピー提出が不要となり、その場での確実な資格確認が可能となる。これにより、なりすまし防止の強化と業務効率化の両立が図られている。
スマートフォン対応による利便性向上
2025年春にはiPhoneでの対応が開始される予定である。現在Androidでは電子証明書機能のみ対応しているが、iPhoneでは電子証明書と券面情報の両機能に対応する。これにより、年齢確認が必要な酒類・タバコの購入時などでも、スマートフォンで手軽に本人確認が可能となる。コンビニエンスストアでの実証実験も既に実施されており、Face IDやTouch IDとの連携により、従来の4桁暗証番号入力が不要となるなど、大幅な利便性向上が期待される。
ただし、技術的な課題も存在する。マイナンバーカード開始から約10年が経過し、暗号技術の更新時期を迎えているため、次世代カードの仕組み検討が進められている。また、医療機関での読み取り不良や文字化け問題(黒丸問題)などの運用面での課題についても、継続的な改善が図られている。
マイナポータルの機能拡充
マイナポータルは、国民が自己の行政情報を閲覧・管理するためのプラットフォームとして重要な役割を果たしている。税務情報、社会保障情報、医療・薬剤情報などの自己情報閲覧機能に加え、26種類の子育て・介護関係手続きのオンライン申請が可能となっている。
特に引越し手続きでは、従来必要であった転出届の取得が不要となり、転入先での手続きのみで完了するなど、大幅な簡素化が実現されている。災害時の罹災証明申請についても、オンラインでの迅速な手続きが可能となり、被災者支援の効率化に貢献している。
民間サービスとの連携も進んでおり、API機能を通じてお薬手帳アプリとの情報同期や確定申告支援サービス、ヘルスケア関連アプリとの連携が実現されている。これにより、行政が保有する個人情報を民間サービスで有効活用することが可能となり、新たな価値創造の機会が生まれている。
医療DXの推進と課題
医療DXの中核として、全国医療情報プラットフォームの構築が進められている。これは電子カルテ情報を全国で共有し、どこでも必要な医療情報にアクセス可能とする仕組みである。しかし、これは医療従事者にとって新たな責任も伴う。情報を見ることができる以上、見落としに対する責任も発生するため、専門職としての対応が求められる。
電子処方箋についても推進が図られているが、現状では普及率が低い状況にある。しかし、患者側にとってはリアルタイムでの服薬情報共有により重複投薬や併用禁忌のチェックが強化され、医療機関側にとっても最新の調剤情報への即時アクセスにより、より正確な処方判断が可能となるメリットがある。
感染症対策の観点からも、医療DXの重要性が高まっている。従来のFAXベースの発生届から、インターネット経由での電子的な情報共有システムへの転換が図られており、次の感染症危機に備えた体制整備が進められている。これらのシステムは全国医療情報プラットフォームを基盤として構築される予定である。
今後の展望と課題
マイナンバーカードとその関連システムは、日本のデジタル社会基盤として確実に定着しつつある。今後は技術革新による更なる利便性向上と、新たな利用シーンの開拓が期待される。標準型電子カルテとの連携や臨床研究データの活用促進など、医療分野での活用拡大も継続的に推進される。
しかし、課題も存在する。デジタルデバイド対策として、高齢者や技術に不慣れな層への支援体制の充実が必要である。また、医療従事者においては、「やらされている」という受け身の姿勢ではなく、デジタル技術を活用した新たな価値創造の機会として捉える意識転換が重要である。
講演者は最後に、マイナンバーカードやマイナポータルを始めとするデジタル基盤が急速に発展している現状において、医療業界がこの変化に適応し、積極的に活用していくことの重要性を強調した。デジタル技術の恩恵を最大限に享受するためには、現場レベルでの理解促進と積極的な取り組みが不可欠であり、それが最終的には患者の利便性向上と医療の質向上につながるとの見解を示した。